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抜かない刀:数える仕事

2026年(透暦52年)9月18日 (寄稿・鹿目千歳) English

©東亰新報

刀士・鹿目千歳の連載コラム第1回。抜かなかった回数を数える仕事について。

この連載を書くよう編集部に頼まれたとき、最初に聞いたのは「何を書けばいいんですか」だった。編集長は「抜かなかった日のことを書いてください」と言った。抜いた日のことではなく。それでいいのか聞き返したら、「それでいいんです」と返ってきた。

きょうは朝から会場警備の仕事だった。優勝を懸けた大きな試合があって、うちの若い者を一人連れて、人の多い場所にただ立っていた。何かをするための仕事ではなく、何もしないための仕事だと思っている。列に並ぶ人たちが刀を見て、少し緊張した顔をすることがある。そういうとき、抜かないことのほうが、抜くことよりずっと難しいと思う。

同行1件あたりの抜刀率は約1割、という数字を、この記事を読む人は何度か目にしたことがあるはずだ。うちの流派の統計係が毎月数えている。若手にはよく「1割の日のために鍛えているんじゃない。9割の日のために鍛えている」と言っている。9割の日は、記事にならない。だからこの連載で、9割の日のことを書く。

きょうの若い者は、初めての大人数警備で、ずっと肩に力が入っていた。休憩中に「何もしなかったので、あまり働いた気がしません」と言うから、「それが一番いい報告です」と返した。抜かなかった、何も起きなかった、そのまま無事に会場は静かに閉まった——それだけの日を、私はきちんと数えている。

来月、五番勝負がある。水無瀬の若い衆がデビューすると聞いた。私は「出ない」と毎回言って、毎回出ている。今年もたぶん同じことになる。抜かない稽古をしている人間が、抜く競技に出るのは、少し妙な話だと自分でも思うが、稽古と本番は別の棚に置くものらしい。

数える仕事は、地味だ。地味でいいと思っている。

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