亀戸「3分遅れ」街区、ある夫婦と柱時計 「三分なら、ちょうど迎えに出られた時間」
亀戸三丁目の「3分遅れ」街区(既報13日・20日)で暮らす28世帯のうち、最初から時計が遅れていた一軒に、潜行監視員・霧生伊織(29、既報)が26日夜、定期確認で三度目の訪問をした。訪ねたのは、夫を4年前に見送った女性(81)の家。遅れの原因・機序は依然不明のまま温存されるが、本紙は今回、街区に暮らす一人の住民が三分間をどう受け止めているかを聞いた。
■ 三度目の訪問、変わらない三分
霧生伊織(29)が亀戸三丁目の一軒を訪ねたのは、既報(13日・20日)の定期再測定の一環だった。この家の柱時計は、街区で最初に遅れが確認された41台のうちの1台で、13日の発覚時からずっと、正確に3分遅れたまま動いている。霧生は持参した標準時刻同期済みの携帯端末と見比べ、「変わらず3分です」と告げた。家の主である女性(81、氏名非公表、以下「女性」)は「ありがとうございます」とだけ言って、茶を出した。
■ 「三分なら、ちょうど迎えに出られた時間」
女性の夫は、鉄工所に通う会社員だった。4年前に亡くなるまで、毎日同じ時間の電車で帰ってきていたという。「主人の乗る電車が遅れることは、月に一度か二度あった。だいたい三分くらい。改札を出て、家までの道をいつもの速さで歩くと、ちょうど三分遅れたぐらいで、こちらが迎えに出た引き戸の音が聞こえた」。女性はそう振り返り、「この時計が3分遅れていると教えてもらったとき、怖いというより先に、間が持てたような気がした。もちろん、そんなはずはないと分かっている。TDAの方にも、関係はないとはっきり言われた」と続けた。
霧生は取材に「この街区を回っていて、遅れを怖がる人もいれば、女性のように自分の記憶と結びつけて話す人もいる。どちらの受け止め方も、こちらから否定するものではないと思っている」と話した。
■ 機序は依然不明、範囲は20日以来広がらず
TDAによると、既報(20日)に新たに確認された境界道路向かいの雑貨店1軒を含め、遅れの範囲は20日以来広がっていない。遅れの量も全戸で変わらず3分のままで、既報の「消えた路地」(10月7日既報)との関連を示す根拠も今回も見つかっていない。TDA広報は「量も範囲もこの一週間は静かなままだ。だからといって終わったとは考えていない」と述べ、定期確認を今後も続けるとした。
■ 他の27世帯の受け止めは、まちまち
霧生によると、同じ街区の27世帯の受け止め方は一様ではない。「怖いから早く原因を調べてほしい」と訴える世帯もあれば、「3分くらいなら、むしろ愛着が出てきた」と話す世帯もある。既報(20日)で新たに遅れが確認された境界道路向かいの雑貨店の店主(68)は、27日の取材に「最初は気味が悪かったが、今はレジの時計をわざと直さずにいる。3分遅れの時刻で品物を並べ始めても、誰も困らないと分かったから」と笑った。霧生は「街区ごとに原因が一つなら、受け止め方は一つに決まってもおかしくないはずだが、実際にはそうなっていない。そのばらつき自体が、この現象の奇妙さを物語っていると思う」と話した。
■ 「待つ」という時間について
女性は最後に、「主人が死んでから、待つという時間が自分の生活からすっかり無くなってしまった。この時計のおかげで、三分だけ、また待つということができているような気がする日もある。説明なんて要らない、と思うこともある」と話した。霧生はこの言葉を記録に残しつつ、「TDAとしては原因不明のまま温存するしかないが、記録には、こういう受け止め方があったということも残しておきたい」と語った。
正体・原因とも未解明のまま温存される。



