第2窓「機構の海」、5回連続で一致 観測記録が初めて別の審議の資料に
湾岸倉庫街・第4号倉庫の第2定常窓「機構の海」で観測されている塔の「鳴き交わし」が、21日深夜からの開口でも既報どおり1から7で折り返す規則で一致し、9月30日以来5回連続となったことが23日、分かった。この観測記録が、国会で開かれたロボット法制審議会の非公開会合に資料として提出されたことも判明し、向こうの世界の観測が、こちらの制度論議の場に初めて直接持ち出される出来事になった。
■ 窓番の夜、5回目の一致
次元調査課の窓番は、第2窓の前に座ることを「潮を聴きに行く」と呼ぶ。21日午後11時40分から始まった開口は58分間続き、既報どおり片方の塔が1、2、3と連打の数を増やし、7に達すると1に戻るという規則的な「鳴き交わし」が、今回も崩れなかった。9月30日・10月2日・6日・12日に続く5回連続の一致で、次元調査課は「再現性は、もはや疑う段階ではない」との見解を23日に示した。意思疎通と断定することは、五原則にのっとり今回も避けている。
観測にあたった窓番の一人は、日誌にこう記している。「7のあとに1へ戻る瞬間、こちらの時計で言えば午前0時17分。何度聴いても、戻るというより、始め直しているように聞こえる」。向こうに人間がいない世界で、金属の群体が繰り返す数字だけの会話は、聴くたびに違う表情を見せるという。
■ 法制審への資料提出、経緯
この観測記録が23日に判明した形で注目を集めたのは、22日夜に国会内で開かれたロボット法制審議会の非公開準備会合(本紙別項)に、参考資料として配布されていたことが分かったためだ。次元調査課によると、提出を申し出たのは審議会事務局側で、「機械的な構造から規則的・数的な振る舞いが生まれる例」として、既報の第2窓の観測記録一式の提供を求められたという。次元調査課の担当者は「向こうの世界の出来事を、こちらの法律論議の根拠に使われることには戸惑いもあったが、観測事実そのものを隠す理由はない。使い方の判断は審議会に委ねた」と説明した。
ロボ法制審の委員の一人は「機械仕掛けの向こうにも、数えるような振る舞いがあるという事実は、こちらの議論を決めずに済ませてよい理由にはならないと、背中を押された」とコメントしている(既報・本紙別項)。共生ロボットの音楽プロデューサー「タチバナP」も、既報どおり「7で折り返すのは拍の数え方として悪くない」と評していたことがあり、今回の資料提出を受けて所有者の立花家は「うちの子の感想が、まさか国会に届くとは思わなかった」と驚いた様子だった。
■ 向こうは「知らない」まま
次元調査課は、向こうの世界の機械群体がこちらの存在を認識しているかどうかについて、これまでどおり「証拠はない」との立場を崩していない。窓の存在に反応して鳴いているのではなく、窓が開いているかどうかに関わらず鳴き続けている可能性が高いという。担当技官は「こちらが一方的に聴いているだけ、という基本は変わらない。向こうにとっては、たまたまこちら側の窓が開いていた、というだけの出来事だろう」と話す。
第1窓「灯しの街」との関連づけ(式の札との類似など)は依然保留されているが、担当技官は「機構の海の規則性は、灯しの街の人々の振る舞いとは種類が違う。今のところ、別々の『不思議』として扱うのが正しいと思う」と述べた。
■ 窓室の湯呑み
窓室には、常滑の窯元三代目・榊原周造さん(既報)が焼いた湯呑みが、歴代の窓番の分だけ並んでいる。21日深夜の当番だった窓番は、7回目の連打が1に戻った直後、「今日の分」として湯呑みに茶を注いだという。向こうの世界には届かない独り言のような作法だが、5回連続の一致を見届けた夜の、小さな儀式になっている。
■ 第1窓・第3窓・第4窓は、きょうも静かに
5窓のうち、きょう23日時点で動きが報じられているのは第2窓だけではない。第1窓「灯しの街」は既報(22日)の録音分析の第一報を受け、依然「不定」のまま終日が続く見通し。第3窓「粘体の沼」は週1回に制限されている信号実験の予定日で、午後に開く見込み。第4窓「巨獣の原野」は目立った動きのない日が続いている。第5窓「剣の国」は、既報の送付物の解読が11月以降に持ち越されたまま、きょうも閉じている。5窓を同時に抱える次元調査課にとって、ある窓が静かな日に、別の窓が思いがけない形で紙面の外まで届く――というのは、戸田輪記者が「この仕事の、いちばん説明しづらい面白さ」と呼ぶ巡り合わせだという。
■ 「数える」ことと「決める」こと
ロボ法制審の委員の一人が今回の観測記録について語った「数えるような振る舞いがあるという事実は、こちらの議論を決めずに済ませてよい理由にはならない」という言葉を、次元調査課の担当技官はどう聞いただろうか。取材に対し、技官は少し考えてから「向こうが数えているのかどうかさえ、こちらには証明できない。それでも誰かがこちらの背中を押したのなら、それはきっと、向こうの機械ではなく、観測を諦めずに続けてきたこちらの窓番たちの分だということにしたい」と話した。
次元調査課は、6回目以降の有無について継続観測を続ける方針で、11月の外部有識者検討会にも今回の資料提出の経緯を報告する予定。原因・意味づけは、今回もまだ誰にも分からない。それでも、分からないものを分からないまま見つめ続けてきた窓室の記録が、思いがけない場所で誰かの背中を押したという事実だけは、確かに残った。



